前回「チョコレート製造の知識④ ココアバターの特徴」でココアバターの魅力を伝えました!
しかし、第一次世界大戦のときに、ココアバターが手に入らなかった時代があり、
油脂研究者は「ココアバターの代わりになる植物油脂」はないか、研究を重ね、見事開発に成功しました。
現在でも、その油脂はココアバター代用脂として活用されており、テンパリング操作が不要な植物油脂の開発もされております!
今回は、科学的に開発した画期的な植物油脂である「ココアバター代用脂」について紹介いたします!
ココアバター代用脂とは?
ココアバター代用脂とは、ココアバターと非常に似た性質を持つ植物油脂のことです。
ココアバターとどんな割合でも混合できるがテンパリングしなければブルームが起きてしまう「テンパリングタイプ」と、
ココアバターと混合する割合を増やしすぎるとブルームが起きてしまうが、テンパリングしなくても光沢が得られる「ノーテンパリングタイプ」があります。
チョコレートメーカーの間では、テンパリングタイプの油脂とチョコレートのことを「テンパー油脂、テンパーチョコ」、ノーテンパリングタイプの油脂とチョコレートのことを「ノーテン油脂、ノーテンチョコ」と呼びます!
テンパリングの研究をしていると、出現したブルームによって、配合を見ずにテンパーかノーテンのチョコか識別できるようになります!私もそれができるようになったとき、自分自身の成長に嬉しくなった経験があります笑
・テンパーブルーム:天の川のようにチョコレートの表面にもやもやした茶色と白の混ざった色のラインが出てきたらテンパータイプのチョコです。(参考まで)
・ノーテンブルーム:夜空の瞬く星のように、チョコレートの表面に白い星が現れたらノーテンのチョコです。(参考まで)
テンパリングタイプのココアバター代用脂
テンパリングタイプのココアバター代用脂には、一般的に2種類(CBE、CBI)あります!
CBE(Cocoa butter equivalent)
CBEは、ココアバターとほぼ同様の物性を示してくれる植物油脂です。
ココアバターを使用したときのチョコレートと同じような口どけや固めたときのスナップ性、光沢が得られます。
しかし、ココアバターを構成する油脂成分(トリアシルグリセロール)と同じ成分でできているので、
ココアバターを使用したときと同様にテンパリングを行わないとチョコレートの表面にブルームが出てきてしまいます。
板チョコに使われることが多いと思います。
CBI(Cocoa butter improver)
CBIもココアバター代用脂ですが、夏場に食べるときに高温に耐えつつテンパーの口どけを実現したいなど、
ココアバターを構成する油脂成分(トリアシルグリセロール)の成分量を変えて、
ココアバターの性質を改良した植物油脂のため「ココアバター改良脂」とも呼ばれます。
こちらも板チョコやチョコレート菓子に使われることが多いですが、夏場や冬場に合わせた融点のチョコレートを作るときに必要としたことがありました!
テンパータイプ油脂の原料
ココアバターの油脂成分と同じような成分が配合された油脂同士をブレンドしたり、科学的に加工したりしてCBE、CBIを作っています。
その原料は、パーム油中融点画分、イリッペ脂、シア脂、サル脂、ひまわり油があります。
CBIを使って、お客様のご要望に合わせた性質のチョコレートを作ることがあります。
CBEと異なり、チョコレートの融点が一般的な温度と異なることがあるので、
一般のチョコのテンパリング工程で、最下点(チョコレートの温度を下げてⅣ型結晶が出せる温度)までチョコ温度を下げようとすると、リヒート(Ⅳ型からⅤ型へ変身させためにチョコ温度を上昇させる工程)する前に完全に固まって攪拌する機械が動かなくなってしまうなど、ベストなテンパリング温度を探すのに一苦労した経験があります…泣
ノーテンパリングタイプのココアバター代用脂
文字通り、テンパリング工程なしでもチョコレートを固めたときに、きれいな光沢が得られる植物油脂です。
ココアバターは結晶の形が6種類あるので、テンパリングして我々が求める結晶の形へコントロールしなければいけませんが、
ノーテンパリング油脂の結晶形は1種類しかないので、テンパリングが不要なのです。
CBS(ラウリン酸系油脂)とCBR(非ラウリン酸系)の2種類が存在しています。
CBS(Cocoa butter substitute)
CBSは、ココアバターと同様の温度範囲で融解し、似たような食感を持ちます。
しかし、原料がココヤシ油やパーム核油なので、ココアバターとは全く異なる油脂成分(トリアシルグリセロール)で構成されており、
結晶化するときの結晶形もココアバターと異なる植物油脂です。
※パーム核油:アブラヤシの果肉の種の中の油脂であり、構成する油脂成分はココヤシ油と似ている。
CBSにココアバターを10%以上加えてしまうと、成分が全く異なるので、経時的にCBSとココアバターの各成分同士で集まってしまい、
結果的にブルームになってしまうので注意が必要です。
また、水分と酵素の働きにより、油脂の加水分解が起きて、石鹸のようなにおいを発することがあります!
しかし、テンパリングが不要のため、作業性は抜群であり、食べると口どけがシャープなので、
主に、ドーナツなどの日持ちしない洋菓子のコーティング用のチョコレートに使われます!
CBR(Cocoa butter replacer)
CBRもテンパリング不要の油脂です。原料であるパーム油や大豆油を加工して作られます。
CBSと比較すると、口どけはややなだらかな油脂が多いですが、品質が変化しにくいので、
クッキー用のコーティングチョコなどの日持ちするお菓子に使用されます。
また、CBSと異なり、結晶形がココアバターと似ているので、ココアバターを25%まで混合させることができます。
テンパーチョコとノーテンチョコを配合を見ずに見分ける方法としては、「口どけ」もありました!
口どけがシャープであると感じたとき、テンパーチョコであることが多かったです。
口どけがシャープでないかなと思ったらノーテンチョコであることが多かったです!
でもたまーに、CBIを使って高融点にしたテンパーチョコに騙されることもありました…汗
なぜノーテンチョコにココアバターを入れたがるのか?
製造したチョコレートを「チョコレート」と呼ぶためには、ココアバターの成分量がカギになるからです!
日本のチョコレートの規格基準である「チョコレート類の表示に関する公正競争規約(以下:規約)」には、
カカオマス、ココアバター、乳脂、水分などの成分の分量で、チョコレートと呼べるか否かが決まります。
商品の裏面表示を見ると、種類別名称に、チョコレートや準チョコレートなどと記載があると思います。
規約の中にココアバターやカカオマスの成分量ごとに分類された名称があり、それぞれ定義があります。
製造したチョコレート製品の配合%を見れば、どれに分類されるか分かります。
その成分の一つにココアバターがあり、この成分量が何%以上でないと商品に「チョコレートもしくは準チョコレート」などと名付けられません。
あとは、個人的にココアバター量が多いチョコレート製品は、おいしかった経験があります笑
作り手はブルームと闘いながら試行錯誤を繰り返しているのです!
チョコレートメーカーとして
チョコレートというお菓子は、油脂が何であるかで物性を自由自在にできる面白さがあると思います。
チョコレートがどんな性質かを見極めた上で、「テンパリングを不要にして作業性をアップさせる」で作り手を楽にしたり、
「水分に気を付けないと油脂の劣化が激しくなるので、チョコレートの用途に注意する」などと気を配ったり、
チョコレートというお菓子は油脂の選択で物性が変化しやすいので、おいしいだけでなく使い手の「利便性」も考えなくてはいけないと改めて感じました。
次回のお話
チョコレートの末端の製造方法、モールド(型)、レボルビングパン、生チョコレートなど、
経験則から苦労話を盛り込んで紹介していこうと思います!
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