前回「カカオのビックリ知識③_カカオ豆の加工~乾燥から出荷~」は、
発酵を終えたカカオ豆をチョコレート工場で出荷させるために、「乾燥」を行うというとても肝心な工程を紹介しました。
みなさん…お待たせいたしました…
お待たせしすぎたかもしれません!!!!!
発酵で作った香味成分の前駆体(詳細はこちら→カカオのビックリ知識②_カカオ豆の加工~発酵~)を我々の鼻へ解き放つため、
いよいよカカオ豆の加工の最終回、「ロースト」工程に入ります。
(みなさんの期待)
ローストと聞くだけでもうチョコレートの香りがしてきそう!
でも、ローストって、カカオ豆に熱を加えちゃって大丈夫!?
(私)
大丈夫ですよ!発酵、乾燥したカカオ豆は、絶妙な熱加減で、チョコレートに特有な香りの成分を発生させるんです!
「ロースト」とはどんな工程か、早速いってみましょ~!!!
「ロースト(焙炒)」工程とは!
チョコレートの香りを決定付ける「ロースト(焙炒)」工程は、発酵、乾燥したカカオ豆に熱を加える工程ですが、
その工程の最大の目的は、「香味成分前駆体からチョコレート独特の香り成分を生み出すこと」ともに、「風味(苦味など)に深みを持たせること」です!
「発酵」で香味成分の前駆体を発生させますが、
実は、発酵していないと「ロースト」してもチョコレート独特の香りは生まれません!
しかし、発酵しない豆でも乾燥させてローストさせても食べられます!
メキシコでは、発酵しないままローストさせたカカオ豆と同様に焙炒したトウモロコシと一緒に水に混ぜて作る「パツォル」という栄養ドリンクがあるらしいです!!
ローストする温度・時間で香味成分をコントロール!
ローストする温度、時間の設定の仕方によって、後にできあがるチョコレートの風味が異なります!
一般的には100℃~140℃の熱を加えて、カカオ豆が焦げる寸前のところ(数十分くらい)で止めますが、非常に難しい作業です。
しかし、香味を決めるため各企業の「こだわり」が出る工程でもあるので、面白いです!
なので、使用するロースターなどは、企業秘密なことが多いです…(ゾクゾク)
【こだわり例】
・高温深煎りロースト
苦味とコクのある深い味わいをカカオ豆から引き出せます。
・低温浅煎りロースト
ロースト前のカカオ豆の特徴を残した品質になります。
近年話題の「Bean to Bar」では、使用するカカオ豆の特徴を理解した上で、そのおいしさを最大限引き出せるように
ロースト方法を研究して、チョコレートを作っています!
ローストで生じる香味成分は数千種類があり、各成分が絡み合って私たちの知っているチョコレートらしい香りになります。
この香りにも、様々な香り方があり、研究する際に以下のような表現を使うことがあります。
・フルーツ調
・バナナ調
・ピーナッツ調
・キャラメル調
・ハーブ調
・グリーン調(草っぽい香り)
・ウッディー調(木っぽい香り)
・アーシー調(土っぽい香り)
・フローラル調(花っぽい香り)
・金属っぽい
・薬品っぽい などなど…
みなさんはチョコレートを食べるとき、どんな風に香味を表現しますか??(ワクワク)
カカオ豆のどんな状態でローストさせるかも肝心!
豆ロースト
出荷されたカカオ豆の状態をそのままローストさせる方法を「豆ロースト」と呼びます!
一般的には、ロースターにカカオ豆を入れて熱風により加熱ローストします。
ローストが終了したカカオ豆は、余熱による過ローストを避けるためにすぐ冷却されます。
豆ロースト法の場合、ローストを終了したカカオ豆は次の工程でカカオ豆を砕いて、種皮(シェル)と胚乳部分(カカオニブ)に分離されます。
【豆ロースト法のデメリット】
・ローストのばらつき
出荷されるカカオ豆の大きさは均一ではないので、豆ローストの際にばらつきができてしまう。
・非効率な熱エネルギー
チョコレートでは使わない部分(シェル)も一緒に加熱するので、余分な熱エネルギーを使うことになり、コストがかかります!
・ココアバターのロス
カカオニブの中に存在する脂質(ココアバター)の一部がローストによってシェルに移行するため、ココアバターの量が減少してしまいます。
ニブロースト
出荷されたカカオ豆を粗く砕いて種皮(シェル)を取り除い得られるカカオ豆の胚乳部分(カカオニブ)の状態にしてからローストさせる方法を「ニブロースト」と呼びます。
大きさのばらつきが少ないので熱を均一に加えやすく、ムラや雑味の少ない綺麗なローストができるという豆ロースト法のときのデメリットを払拭できます!
【ニブロースト法のデメリット】
・豆ロースト法よりも生み出した香りが飛びやすい!
ニブローストはやや香が飛びやすい方法なので、狙っていた香りがなくなっている!?
なんてことがある可能性があります。
・粉砕時に大きさにばらつきがあると均一なローストができない!?
豆ロースト法よりも大きさのばらつきは小さいものの、粉砕時のニブの大きさにばらつきがあると、均一にローストできなくなります!
どちらの方法にもそれぞれのメリット・デメリットがあり、作る人が求める風味に合わせて選択しています!
家庭でカカオ豆をローストしたいと思ったら、フライパンでもできます!笑
Amazonでカカオ豆が売っていたので、ワインのおつまみにいかがでしょうか?笑
ローストが終わったら、カカオマスへ変身です!
ローストが終わったカカオニブを「磨砕」というすりつぶす工程に移行します。
カカオニブの成分の半分は、脂質(ココアバター)が含まれているため、
磨砕機ですりつぶすと固体のカカオニブから粘度のある液体になります。
この粘度のある液体は「カカオマス」と呼ばれます。
このカカオマスがチョコレートの原料になります!
巷で流行っている「カカオ分〇〇%チョコレート」の「カカオ分」とは、
水分を除くカカオ由来原料のことで、カカオマス、ココアバター、ココアパウダーなどがあたります。
「カカオマス」だけ食べようとすると「カカオ分100%のチョコレート」を食べていることになります笑
とーっても苦いので、お気をつけてお召し上がりください…笑
ローストがもたらすメイラード反応!
どうしてローストすると、香味成分が放たれるのか…それは、
加熱させることによりカカオ豆の中で「メイラード(褐変)反応」が起きるからです!
「メイラード反応」とは
メイラード反応とは、加熱により糖とアミノ酸などの間で褐色物質の「メラノイジン」などができる反応です。
これにより食品が褐色(焦げ茶色)で香ばしい風味になります。
メイラード反応の特徴は、加熱温度や糖とアミノ酸の組み合わせによりさまざまな香りができることです。
パンやホットケーキのキツネ色、ごはんのおこげ、砂糖を焼いたときにできるカラメル…
これらの焼き色は、メイラード反応でできる「メラノイジン」によるものです。
メイラード反応には、2種類あり、「酵素的褐変」と「非酵素的褐変」があります。
パンやホットケーキなど「加熱したときにできる褐変反応」は「非酵素的褐変」です。
「酵素的褐変」は、例えば、リンゴの皮をむいてしばらくすると、表面が茶色になってきます。
これは、リンゴ中のポリフェノールが空気中の酵素によって酸化するためです。
発酵したカカオ豆でないとメイラード反応は起こらない!
メイラード反応の条件は「糖」と「アミノ酸」が存在することです!
発酵していないカカオ豆は、糖やアミノ酸が非常に少ないため、加熱してもメイラード反応が起こらず、チョコレート様の香りは生まれません。
ロースト時の化学反応で生まれる香り例
カカオのローストでは、温度と時間の管理が大切であることは述べました。
化学的にも説明しようと思います!糖とアミノ酸で同じ物質の間でも温度が変われば、メイラード反応で生じる香りが変わってきます!
例えば、
ブドウ糖とロイシン(アミノ酸の一種)のメイラード反応では、
100℃で加熱すると、甘いチョコのような香りがしますが、
180℃で加熱すると、焼いたチーズのような香りがします!
メイラード反応の仕方を理解すると、香りや色を自在に操れそうですよね!!
メイラード反応という名前は、発見者の名前にちなんで付けられています。
フランスの科学者、ルイ・カミーユ・マイヤールが発見したそうで、彼の名Maillardの英語読みから来ているそうです!
※メイラード反応は「アミノカルボニル反応」の一種です。
カカオ豆の加工の次は?
カカオ豆の加工のお話、楽しんでいただけましたでしょうか?
私は、化学反応でコントロールでき、いくらでもこだわれるところに魅力を感じます!
カカオ豆の栽培や加工を自分でやるときは、どんな環境条件にするか…そうするとどんな風味になるか…
作戦を練るだけでも楽しくなってきますね!!
次回は、「チョコレート製造編」です!
チョコレート製造者にしか分からない「あるある」を紹介しながらお届けしますね!
コメント